SNSで広がる「W杯 アルゼンチン優勝が仕組まれてる」説は本当か?

SNSの疑惑を検証

2026 FIFAワールドカップをめぐって、SNSでは「FIFA会長らがアルゼンチン優勝をあらかじめ仕組んでいるのではないか」という疑惑が話題になり、収束の兆しがない。

この手の話は一度広がると、それを決定的に打ち負かすような根拠がないと、大きなうねりとなって情報空間を席捲していくもの。

果たしてこの話題、話をつなぎ合わせた「印象論」でしかないのか、それとも「火のないところに煙は立たない」のか?

この記事では、何が根拠として語られているのか、それに対してどんな反論があるのかを順番に整理していきます。

「アルゼンチン優勝仕組まれ説」はなぜ沸き上がった?

この疑惑が広がった背景には、いわゆる「にわかサッカーファン」が抱くアルゼンチン戦での判定をめぐる違和感のみならず、多くの人が共有するFIFAそのものに対する不信感が根底にあるといえそうだ。

vs エジプトでの不可解な (?) VAR介入

決勝トーナメント2回戦(Round16)のアルゼンチン vs エジプトの試合。

エジプトが1-0とリードした後半12分ごろ、エジプトの2点目のゴールが幻となった。

エジプトが自陣でボールを奪い、ドリブル突破と絶妙なパスワークを組み合わせた美しいカウンターを決め、アルゼンチンのゴールネットを揺らした。オフサイドの懸念も全くないことから、テレビの実況もエジプト2点リードを声高に叫んだ。

ところが、エジプト選手、エジプトベンチ、エジプトサポーターが歓喜に沸く中、事態は思わぬ方向に…

ゴールが決まった時点から約20数秒前、エジプトが自陣でボールを奪ったラフプレーがファウルだったことを理由に、エジプトの2点目ゴールがVARによって取り消された。

※なお、VAR判定は、ゴールに至った一連の動きを攻撃の起点まで遡ることができるので、このケースにVARが適用されるのは何の問題もない。

試合はその後、エジプトが「文句なしの2点目」を挙げたものの、アルゼンチンがメッシの1ゴール1アシストを含む怒涛の反撃で立て続けに3点を挙げ、アルゼンチンが3-2で劇的逆転勝利を収めた。

特に3点目、アルゼンチンが自陣・ペナルティーエリア内でボールを奪った際、エジプトの選手(サラー)が転倒したことから「同様にアルゼンチンの得点は取り消され、むしろ、エジプトにPKが与えられるべきだった」「この試合はエジプトが3-2で勝っていた」とする言説が広まった。

vs スイス カード対象間違いでスイス選手が退場に

準々決勝のアルゼンチン vs スイスの試合。

後半、1点リードされたスイスが追いつき1-1となり、スイスがイケイケの状態になったところ。

アルゼンチンのパレデスにイエローカードが出された後、VAR介入があり、パレデスのイエローが取り消され、逆に、スイスのエンボロにこの日2枚目のイエローカードが出され、エンボロは退場。

アルゼンチン選手に出されたカードが取り消され、代わりにスイスの選手が退場になった判定が、あたかも「アルゼンチンびいき」を象徴するかのように受け取られ、「またか」といわんばかりの言説が広まった。

イングランド代表選手への厳罰(?)

イングランド代表のクアンサーが退場処分を受けた際、FIFAが「2試合出場停止」を下した。

イングランドとアルゼンチンがともに勝ち進んだ場合、ここから2試合後(準決勝)に両者が対戦することになる。

アルゼンチンの組み合わせ優遇感

組み合わせ抽選の段階から、アルゼンチンが優位になるよう仕組まれていたのではないかという見方(シード権の配置)も火に油を注いでいる。

フランス vs モロッコ戦の審判団が「全員アルゼンチン人」

アルゼンチンの最大のライバルと目されるフランスの準々決勝(対モロッコ)において、オンフィールドの審判員5名全員にアルゼンチン人が任命されたことが発表され、「フランスを脱落させるための罠か」と世界中で物議を醸している(試合はフランスが2-0で勝利)。

「アルゼンチンに有利な判定が多い」「相手チームに厳しすぎる」といった声がSNSで重なり、そこから「大会そのものが操作されている」という話に発展。

FIFA会長への不信感

決勝トーナメント1回戦(Round32)、開催国アメリカ vs ボスニアヘルツェゴビナ戦で、アメリカのストライカー・バログンが一発レッドで退場。当然、次の試合は出場停止なはず。ところが…

アメリカ大統領トランプがFIFA会長インファンティーノに電話した後、なんと、バログンが次の試合(対ベルギー戦)に出場することが認められることとなった(試合はベルギーが4-1で大勝)。前代未聞の事態である。

この件に象徴されるように、FIFA会長に対する不信感が根底にあるところ、「FIFAは良からぬ企みをしている」といった疑念が湧くのはむしろ当然で、このような背景は「アルゼンチン優勝仕組まれ説」を強力に後押ししていると言えそうだ。

アルゼンチンが敗退するとFIFAの収入が減少?

FIFAとしては、大会の盛り上がり(下がり)は収入に直結する。そういった視点から、「FIFAはアルゼンチンが勝ち残ることを祈っている」という見方には一定の説得力がある。

チケット転売価格が下落

メッシ擁するアルゼンチンが早期に敗退した場合、アルゼンチンが勝ち進むと想定して購入されたチケットを転売する動きが加速し、転売価格が大きく下落することが予想される。

※現に、開催国アメリカの敗退、クリスティアーノ・ロナウド擁するポルトガルの敗退によって、見込まれていたアメリカ戦、ポルトガル戦のチケット転売価格は数十パーセント(最大50パーセント)下落したそうな。

転売価格が下落してもFIFAのチケット販売収入に影響はないように思えるが、転売価格が大幅に下落した場合、外部の転売サイトに人は流れ、一定価格維持に努めるFIFA公式のリセールプラットフォーム利用者は激減する。

スタジアム内収入の減少

ファンが観戦をキャンセルし、空席が目立つ事態になれば、当然、スタジアム内のグッズ販売や飲食の売り上げ(コンセッション収入)が減少する。

将来的なチケット価格設定へのプレッシャー

「スターが去ればチケット価格は暴落する」という実績ができると、ファンは今後の大会で「直前に安く買えばいい」と考えるようになる。これにより、FIFAが次回以降の大会で公式チケットの初期価格を高く設定しづらくなり(値上げしにくくなる)、長期的なブランド価値の低下を招く。

とは言うものの、仮にそのようなFIFAの願望があったとしても、それを実現させるために手段を尽くすというのはまた別の話なはずである。

根拠ざっくりまとめ

「アルゼンチン優勝仕組まれ説」の根拠をざっと整理すると…

・アルゼンチンに有利に見える判定があった。

・アルゼンチンはファウル数のわりに警告が少ない。

・メッシが特別扱いされている(ように見える)。

・FIFAへの不信感がハンパない。結果を操作しているのではないか?

・営業上の理由で、FIFAはアルゼンチンに勝って欲しいというのが本音。

SNSでは印象が先行しやすく、"見た目の違和感" がそのまま “裏工作の証拠” のように扱われてしまうことがあるもの。この話題に限らず、印象的なSNS言説には誰しも引っ張られがちなため、くれぐれも注意が必要だ。

疑惑を主張した主要人物

この話題で特に注目されたのが、エジプト代表関係者の強い発言だろう。

モスタファ・ジコ選手が試合後に「試合は八百長だった」と断じたとされ、ホッサム・ハッサン監督も「FIFAがアルゼンチンの敗退を阻止するために、エジプトに意図的に不利な判定を下した」と主張したと伝えられている。

また、他の代表チーム関係者の過去の発言も今回の疑惑に結びつけて語られている。

たとえばルイス・ファン・ハール氏(元オランダ代表監督)の「アルゼンチンの選手の中には、罰せられることなく過剰なファウルを犯した者がいた」「アルゼンチンが予選を突破するために、すべては事前に計画されていたと思う」といったコメント。

こうした発言は、アルゼンチンに対する不信感を強める “素材” として再利用されやすいが、あくまで、一方当事者の見解である点を忘れてはならない。

「八百長」「仕組まれた」という主張への反論

一方で、「アルゼンチン優勝仕組まれ」説を冷ややかに眺めている人々も当然に存在する。その中には「メッシ信者」もいるかもしれないが、大半はそうではないと考えられる。

それらの人々の多くが、VARの仕組みを正しく理解しており、VARについての誤った認識(=野球やテニスのチャレンジ制度との混同)を指摘する。

VARについての理解不足

サッカーにおけるVAR制度をいまだに多くの人が、野球やテニスのチャレンジ制度と混同していることから、様々な誤解が生じていると見られる。

曰く「アルゼンチンのチャレンジは聞き入れられたのに、エジプトのチャレンジは無視された」。

サッカーにおけるVARは、チャレンジ制度ではなく、監督や選手によるチャレンジによってビデオ判定がなされるわけではない。

VAR(ビデオアシスタントレフェリー)がスタジアムの別室にて常時継続的に試合映像を見ていて、重要な場面での主審の判断につき「今の判定は問題ない」あるいは「主審、重大な見落としがあります」のように連絡し、主審が「問題あり」と判断した場合にピッチ脇のモニターを見て(オンフィールドレビュー)、最終的な判定を主審が下すというものである。

エジプト戦

エジプト戦におけるアルゼンチンの3点目について。

アルゼンチンの3点目の攻撃は、自陣のペナルティエリア内でボールを奪った場面が起点となった。ここでエジプトのサラーが転倒したことについて、「さっき(エジプトの幻の2点目)ビデオ判定があったのだから、ここでもなければおかしい」との意見は誤りで、VARは常時継続して試合映像をチェックしている。判定が行われなかったのではなく、「サラーのシミュレーション」との判断が主審とVARの共通認識だったゆえに、以後、淡々と試合が進行したにすぎない(事実、典型的なシミュレーションと見られる)。

スイス戦

アルゼンチンのパレデスにイエローのはずが、スイスのエンボロにこの日2枚目のイエローカードが出され退場。

主審は独自の判断で、アルゼンチンのパレデスにイエローカードを出したところ、VARから「人違い」の提示があったものと考えられる。そこで、主審はピッチ脇のモニターを見て判断した結果、VARからの指摘を認め、スイスのエンボロのプレーがシミュレーションにあたると判断。パレデスへのイエローカードを取消し、エンボロにイエローカード→レッドカードを提示した。

このケース、「パレデスのファウル」に対するイエローが、「エンボロのシミュレーション」の「人違い」と言えるのかどうかは議論のあるところで(人違いとは、同じチームの別の選手のことを指すと通常は理解される)、ルールの不備・不明確を指摘する声がある。今後、ルールの改善がなされる可能性はありそうだ。

もっとも、これを「アルゼンチン優遇ゆえ」とするのはこじつけであり、既にカードを1枚もらっているエンボロが、明白なシミュレーションをしたことを批判する声が多い。

イングランド・クアンサーへの処分

多くの場合、レッドカードが出されたら、次の1試合のみが出場停止になるところ、クアンサーの場合は2試合の出場停止処分が下された。これは「より悪質」と判断された場合に取られる措置であり、その判断の是非についての議論はあっても、これを「アルゼンチン優遇説」に結びつけるのは飛躍し過ぎであろう。

※その後、準々決勝のイングランド vs ノルウェー戦では、イングランドが優遇されたとする「疑惑の判定」が議論されている。

組み合わせ優遇感

ワールドカップにおいては、くじ運もまた勝ち進むための要素になるが、FIFAランキング1位のアルゼンチンは、くじ運に頼らなければ勝てないほど弱くはないはずだ。

審判団が「全員アルゼンチン人」

準々決勝フランスvsモロッコの試合の審判団が「全員アルゼンチン人」だった点→正確には、主審、副審、第4、第5、VARの1人の計6人がアルゼンチン人。VARの残りの2人はウルグアイ人とニカラグア共和国人。

一方、準々決勝アルゼンチンvsエジプトの試合の審判団は、主審、副審、VARのうちの2人の計5人がフランス人。第4、第5がノルウェー人、VARの残りの1人がベルギー人。

アルゼンチンがフランスと当たる可能性があるのは決勝戦。準決勝ではノルウェーと当たる可能性があった。

アルゼンチン代表側の反応

アルゼンチン代表監督リオネル・スカローニ「この話題は、実際の現場よりもSNSで大きく広がっているだけ」「SNSはあらゆることを増幅させて議論を巻き起こす。だが、贔屓はないしむしろ逆。VARが導入されている現在、審判が誰かを贔屓するのは非常に難しい」。

まとめ|SNSの疑惑は事実なのか

「FIFA会長らがアルゼンチン優勝を計画した」と断言できる客観的証拠はない…ということのみをもってこの説を否定すべきではないものの、これを組織的に行おうと思ったら、審判団がまとめて買収されるほどのことがなければ不可能と考えられる。しかし、世界屈指のレフェリーたちが、揃いも揃って買収され、全員が口を閉ざすなどという状況はあまりにも非現実的であり、あり得ない。

そして実際のところ、VARのルール等、サッカーに詳しい人であればあるほど、SNSでのこのような話題を知らなければ、おそらく「何とも思わない」で過ごすことになるものと思われる。

もっとも、FIFA会長らが、経営的な視点からアルゼンチンの勝ち残りを期待したとしても不思議ではなく、今回の「アルゼンチン優勝仕組まれ説」の根底には、FIFAへの様々な不振感が存在していることは確か。

FIFAに対する衆目の監視というものは今後もあってしかるべきであるし、FIFAは疑念を抱かれないような体制づくりと様々な疑惑に対する丁寧な説明によって信頼回復するしかないものと思われる。

2026 FIFAワールドカップ・決勝トーナメント表(日程つき)

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